2024年12月に、EUの新しい製造物責任(PL)指令が発効しました。
正式名称は「欠陥製品に対する責任に関する、並びに、理事会指令85/374/EECを廃止する欧州議会および理事会の2024年10月23日の指令(EU) 2024/2853(Directive (EU) 2024/2853 of the European Parliament and of the Council of 23 October 2024 on liability for defective products and repealing Council Directive 85/374/EEC)」です。
この新指令は、従来の理事会指令85/374/EECに代わるものとなり、一般に PL指令(Product Liability Directive) または PLD と略称されます。 この指令は「規則(Regulation)」ではなく「指令(Directive)」であるため、効力が各加盟国に及ぶには、各国が国内法を制定する手続きを経る必要があります。(これに対し、規則は各加盟国での国内法化を経ずに直接適用されます。)
各加盟国における国内法の施行期限は 2026年12月9日 と定められており、同日から本指令の適用が開始される予定です。
本指令の概要は、下表のとおりですが、特徴としては以下の点が挙げられます。
- 各法域において有体物に化体していない無形のソフトウェア(AIシステムを含む)に製造物責任が適用されるのかという議論がありますが(日本では「物」ではないとして適用されません)、無形のソフトウェアも同指令の対象になることが明示されました。
- それに伴い、被害者が請求できる損害には「データの破壊又は破損(ただし事業目的で使用されるデータを除く)」も加えられました。
- 「欠陥」の概念については、従来から定められていた「人が通常期待する安全性を欠く場合」に加え、「法令で要求される安全性を欠く場合」も新たに含まれることとなりました。
- これにより、サイバーレジリエンス法(CRA)をはじめとする各種法令で定められた安全性要件(安全性に関わるサイバーセキュリティ要件)に適合していない場合には、それ自体が「欠陥」と判断され得ることが明確にされています。
- それに関連して、各法令に定める製品安全要件に準拠していないことを被害者が証明した場合は、欠陥が推定される、とされています。
- また、上市後もアップデート等が提供されるソフトウェアの性質に鑑み、ソフトウェアの場合は、製造業者の管理下にある限り、上市(利用開始)後であっても、経済事業者は責任を免れないとされています。
サイバーレジリエンス法(CRA)では、必須のサイバーセキュリティ要件への準拠が義務づけられており、違反した場合には巨額の制裁金が課される可能性があります。さらに、CRA上の要件不遵守は製造物責任指令(PL指令)に基づく責任追及につながるおそれもあるため、十分な注意が必要です。
| 発効 | 2024年12月8日 |
| 国内法化・適用開始 | 2026年12月9日 |
| 対象製品 | すべての動産 ※他の動産や不動産と統合・相互接続されている場合も含む。 ※電気、デジタル製造ファイル、原材料、ソフトウェアを含む。 ※ソフトウェアにはAIシステムも含まれる。 ※「デジタル製造ファイル」とは、機械や工具の自動制御を可能にして有形物を生産するために必要な機能情報を含む動産のデジタル版またはデジタルテンプレート、をいう1。 |
| 適用範囲 | 2026年12月9日以降に上市又は使用開始される製品 |
| 対象となる損害2 | ・死亡または人身傷害 ・財産への損害 ・データの破壊または破損(ただし事業目的で使用されるデータを除く) |
| 欠陥 | 人が期待する安全性、またはEU法もしくは国内法で要求される安全性を提供していない場合3 |
| 責任を負う経済事業者4 | ・欠陥製品の製造業者 ・欠陥のあるコンポーネントの製造業者 ・製品やコンポーネントの製造業者の拠点がEU域内にない場合、 - 製品やコンポーネントの輸入業者 - 製造業者の権限のある代理人 - 上記2者が存在しない場合はフルフィルメント・サービス・プロバイダー |
| 証拠開示 | 一定の場合、被告は証拠開示を義務づけられる5 |
| 立証責任 | 原告は、①製品の欠陥、②被った損害、③欠陥と損害との因果関係、を立証しなければならない。 以下の場合は、欠陥が推定される。 ・被告が義務に違反して証拠を開示しなかった場合 ・製品がEU法の定める製品安全要件に準拠していないことを、原告が証明した場合 ・損害が合理的に予見可能な使用中または通常の状況下での製品の明らかな故障によって発生したことを、原告が証明した場合 ※その他、③が推定される場合や技術的立証が困難な場合の推定も規定されている。 |
| 経済事業者の免責 | 製品が上市(利用)された時点における客観的な科学的および技術的知見によれば欠陥が発見できなかったことを被告が証明した場合、被告は責任を免責される(開発リスクの抗弁)6。もっとも、加盟国は国内法において、一定の条件のもと、この免責措置を排除することもできる7。 製品の欠陥が、ソフトウェア(そのアップデートやアップグレードを含む)に起因する場合は、上市(利用)後に生じたものであっても、製造業者の管理下にある限り、経済事業者は責任を免れない8。 |
| 時効期間 | 被害者が以下のすべてを知った日(又は合理的に知りえた日)から、少なくとも3年 ・損害 ・欠陥 ・責任を負う可能性のある関連経済事業者の身元 |
| 除斥期間 | 欠陥製品が上市(使用)された日から10年 ※人身傷害の場合は、一定の条件下で25年 |