2025年6月11日、トランプ政権になってから初めてのサイバーセキュリティに関する大統領令が発出されました。大統領令第14306号”Sustaining Select Efforts to Strengthen the Nation’s Cybersecurity and Amending Executive Order 13694 and Executive Order 14144”(「国家のサイバーセキュリティ強化のための重点的な取組みを継続し、大統領令13694号および大統領令14144号を改正する」)です。
結論から言えば、今回の大統領令は、大統領令14144号を土台に若干の修正を加えたものとなっており、大幅な変更はありません。この大統領令14144号は、バイデン政権がその終了直前の2025年1月16日に発出されたものです。したがって、今回の大統領令は、バイデン政権からトランプ政権への移行によって米サイバーセキュリティ政策がどの程度変更されるかを分析する好材料の一つであるわけですが、少なくとも今回大統領令においてはそれほど大きな変更はないという結果になりました(もっとも、政権の予算削減のために、サイバーセキュリティ関係の職員も大幅に削減されていますので、その影響も含めて、実際に政策運営等に変更があるのかは複合的に判断する必要がありますが、それはまた別の機会に。)。
ほぼ変更はない中で、今回の大統領令の概要は以下のとおりです。
・安全なソフトウェア開発、サイバー防衛におけるAIの活用、外国の脅威への対応に重点
・政府機関に対するコンプライアンス要件を緩和
・デジタルID(モバイル免許証など)の推進についての条項は削除
・宇宙システムのサイバーセキュリティへの言及
・耐量子暗号 (PQC)への言及
米国には、Login.govという政府系デジタルIDがありますが、政府デジタルIDの推進はなかなか進まないですね。
下表では、今回の大統領令の内容をまとめました。ご参考になりましたら幸いです。
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| 表題 | 内容 / EO 14144からの変更 | |
| 1条 | ポリシー | |
| 2条 | サードパーティソフトウェアのサプライチェーンにおける透明性とセキュリティの運用化 | |
| 3条 | 連邦システムのサイバーセキュリティの向上 | |
| 4条 | 連邦通信のセキュリティ保護 | |
| 旧5条 | サイバー犯罪や詐欺に対抗するソリューション | |
| 5条 | AIを活用したセキュリティの推進 | |
| 6条 | 政策と実践の整合 | |
| 7条 | 国家安全保障システム(NSS)とDebilitating Impact Systems(※) | |
| 8条 | 重大な悪意のあるサイバー活動に対抗するための追加手順 | |
| 9条 | 定義 | N/A |
| 10条 | 一般条項 | N/A |
※Debilitating Impact Systems:国防総省・諜報機関等によって運用されるシステムであって、不正アクセス等が国防総省の任務に重大な影響を及ぼす可能性のある情報を処理するもの(44 U.S.C. 3553(e)(2))
以上