2025年7月10日、トランプ政権は、America’s AI Action Plan(米国AI行動計画)(副題はWinning the Race(競争に勝つ))を発表しました。これは、2025年1月に発出されたトランプ政権におけるAI大統領令(バイデン政権下のAI大統領令を撤回したもの)に基づき策定されたものです。
この行動計画は、3つの柱、30の政策目標のもと、90以上の政策措置を掲げ、今後数か月間で取り組んでいくとしています。下表において、3つの柱(pillar)と30の政策目標をまとめました。
| Pillar 1:AIイノベーションを加速する |
| ・煩雑な規制と煩雑な手続きを排除する ・フロンティアAIが言論の自由と米国の価値観を守ることを確保する ・オープンソースおよびオープンウェイトAIの奨励 ・AI導入を可能にする ・AI時代において米国の労働者の能力を強化(empower)する ・次世代の製造を支援する ・AIを活用した科学に投資する ・世界クラスの科学データセットを構築する ・AI科学を進歩させる ・AIの解釈可能性、制御、堅牢性のブレークスルーに投資する ・AI評価エコシステムを構築する ・政府におけるAI導入を加速する ・国防総省におけるAI導入を推進する ・民間および政府のAIイノベーションを保護する ・法制度における合成メディア(ディープフェイクなど)対策 |
| Pillar 2:米国のAIインフラを構築する |
| ・データセンター、半導体製造施設、エネルギーインフラについて、セキュリティを確保しながら迅速な許可制度を構築 ・AIイノベーションのペースに合わせて電力網を開発する ・米国の半導体製造業の復活 ・軍事および諜報機関向けの高セキュリティデータセンターを構築 ・AIインフラのための熟練した人材を育成する ・重要インフラのサイバーセキュリティを強化 ・セキュアバイデザインのAI技術とアプリケーションを推進(※1) ・AIインシデント対応のための成熟した連邦政府の能力を促進する |
| Pillar 3:国際AI外交と安全保障をリードする |
| ・米国のAIを同盟国やパートナー国に輸出する ・国際統治機関における中国の影響に対抗する ・AIコンピューティングの輸出管理の強化 ・既存の半導体製造輸出規制の抜け穴をふさぐ ・世界規模で保護対策を整合させる ・米国政府がフロンティアモデルにおける国家安全保障リスクの評価において最前線に立つことを確保する ・バイオセキュリティに投資する |
ホワイトハウスの発表によると、この中でも主な政策目標は、以下であるとされています(上表の赤字部分)。
①米国のAIの輸出
②データセンターの急速な構築の促進
③イノベーションと導入の促進(規制の撤廃・緩和)
④フロンティアモデルにおける言論の自由の擁護(イデオロギー的偏見がないことを保証する開発者とのみ政府調達契約をする)
また、トランプ政権は、7月23日、上の①②④について大統領令を発出しました。
①については、
”Promoting the Export of the American AI Technology Stack”(米国のAI技術群の輸出促進)
②については、
”Accelerating Federal Permitting of Data Center Infrastructure”(データセンター・インフラの連邦政府による許可の加速)
④については、
”Preventing Woke AI in the Federal Government”(連邦政府においてWokeな(※2)AIの使用を防ぐ)
注目されるのは、規制の緩和・撤廃、及び、フロンティアAIからDEI(多様性、公平性、包摂性)等のイデオロギー的バイアスを排すること、を重視している点です。
※1 軍事AIとの関係では、この政策目標のもと、DoDが主導して、前政権から引き続き、責任あるAI(RAI)と生成AIのフレームワーク、ロードマップ、ツールキットの改良を継続していくとの政策措置が掲げられています。
※2 「政治的に進歩的」「リベラル」や「左派」を意味する新語(Britannica参照)